『生成AI導入の教科書』 企業ホームページ運営参考書籍レビュー
更新日:2024.07.24
生成AIに関する本・書籍をご紹介。今回は『生成AI導入の教科書』(著:小澤健祐)の読みどころやポイントを紹介します。
日本発のAI専門メディア「AINOW」編集長でもある小澤健祐さんが生成AIの基礎知識はもちろん、DX(デジタルトランスフォーメーション)との関係性やビジネスモデルに与える影響などを解説しています。
また、実際の企業におけるAI導入事例もインタビュー形式でまとめられており、業務に生成AIをいち早く活用しているベストプラクティスを紹介しています。
特に重要なポイント・内容
- 生成AIの代表格とも言える存在がChatGPTである。2022年11月に公開され、2023年1月に1億人のアクティブユーザー数を記録して爆発的に注目を集めた。
- 生成AIは創造性に優れ、人間の想像力を超えるような斬新なアイデアや表現を生み出す。これは、学習に使用したデータの多様性や組み合わせの可能性によるもの。そのため、芸術作品の想像やデザインのアイデア出し、新しい商品やサービスの開発など、様々な分野での活用が期待される。
- 生成AIの主な注意点
- データプライバシーとセキュリティ
- バイアス(偏見)と公平性偏見
- 透明性と説明可能性
- 意思決定への過度な依存
- レギュレーションと法規制
- 知的財産権の侵害
- 生成AIのなかでもテキストを生成するAIは、様々な業務を効率化する可能性を秘めている。特にビジネス的なインパクトが大きい大規模言語モデルとは、自然言語処理タスクを実行するために設計された大規模な機械学習モデルである。膨大なテキストデータを学習し、文の生成、文章の要約、質問応答、翻訳、文の分類など、様々な自然言語処理のタスクを実行する能力を持つ。
- 大規模言語モデルなど、高い汎用的な性能を獲得したAIのことを「基盤モデル」と呼ぶ。広範で多種多様なデータを利用して学習を行い、様々な特定のタスクに応じて利用可能なモデルを指す。GPT-4などの大規模言語モデルも基盤モデルのひとつで、多様かつ大規模なデータで学習した結果、様々なタスクに応用できる高い精度を誇る。
- 国内でも大規模言語モデルをめぐる動きは活発化している。2020年11月、LINE社はNAVER社と共同で、日本語に特化した世界初の大規模言語モデルの開発とそれに必要なインフラ構築に取り組むことを発表した。2021年7月には、二社は共同で、日本語や韓国語に特化した大規模な言語モデル「Hyper CLOVA」の開発を発表。2022年の段階で、このモデルは820億パラメータの規模まで開発が完了している。
さらに2023年8月には、日本語に特化した大規模言語モデル「japanese-large-lm」をオープンソースで公開しており、商用利用も可能と発表した。 - 今までのAIは、作ることに主眼が置かれた「作るAI」だった。2010年代後半のAIブームは「第三次AIブーム」と呼ばれ、特に画像認識や予測などの技術が可能になり、「人間の仕事を奪う」とまで言われていた。
しかし、実際は人間の仕事を奪うほどのインパクトはなく、生成AIや大規模言語モデルが生まれる以前は、AIの適用範囲はあくまで限定的。今まで発展してきた画像認識などのAIは、重要な役割を果たしているケースもあるが、「予測」や「分類」などの利用だけでは、業務のあり方そのものへのインパクトに限界があった。
- 生成AIの登場により、「作るAI」は「使うAI」へと変化していく。今までのように個別の用途に合わせてAIモデルを構築する必要性は、生成AIの登場によって薄れてきた。大規模な開発がなくても、既に大規模で汎用的なモデルが構築されているため、個別に事例に当てはめれば様々な課題解決に活用できる。
- これからは、今までのようにコスト削減だけでなく、DXによって売上を増加できるような付加価値の高い事業が多くの企業から生まれていくことが期待される。生成AIの可能性を正しく理解すれば、今まで以上に付加価値が高く、利益効率が高い事業を生み出せるようになる。
- 今まで、各企業が取り組んできたDXの多くは局所的な課題だけを解決する「絆創膏のDX」だった。現在もあらゆる企業のあらゆる部署が、大小様々な課題に直面している。それらの課題を解決するために、多くの企業がクラウドサービスなどの各種ツールを部分的に活用してきた。
- 全社的な視野でのDXにはつながらない「絆創膏のDX」を「根本治療としてのDX」へと実現するためには、生成AIのようにテキストなどのデジタルデータから新たな価値を生み出す「デジタライゼーション」を理解しておくことが重要。
- 生成AIは、組織内のあらゆる情報やツールを一元管理し、意志決定を支援する「DXのハブ」の役割を果たすようになる。
- これからは、生成AIが様々なツール、サービスを仲介する存在となっていくと予想する。あらゆるサービスが生成AIの機能を搭載し、まるで一人ひとりに秘書がつくようなイメージで業務が推進されるようになるはず。実際、ChatGPTはプラグインを提供し、「食べログ」などの様々なサービスが連携した機能の提供をスタートさせた。
また、この考え方は「入力がテキストである」という前提になっているが、今後の生成AIはcsvなどのファイルや画像、音声など様々な情報を複合的に入力できるように進化していくことが予想される。様々な情報を処理できるようになれば、さらに秘書としてのAIの役割は増え、利便性が大きく向上するはず。
- 生成AIは業界に特化するのではなく、マーケティングなどの特定の職種に特化したホリゾンタルな視点での活用検討が多いのが現状。今後は特定の業界や市場セグメントに特化した事業展開を指すバーティカルモデルでの重要性が高まる。
- 生成AIの社内導入における活用推進においては、現場の業務課題を理解し、それに対する適切な設定や調整を行うことが欠かせない。部署間の連携を要する生成AI導入では、社内政治を適切に行い、各部署の協力体制をまずは確率するべき。
また、生成AIの導入体制は、現場ドリブンな生成AI活用を進めることができる「ハブ・アンド・スポーク型」組織の形成がおすすめ。ユーザーのニーズに合わせた使いやすさやシステムの柔軟性を追求し、継続的な改善を行うことで、高品質な生成AIシステムを実現することができる。生成AIの導入は、大規模な変化を伴うため、それを管理・最適化するためには部署レベルでのパイロットプロジェクトが有効。 - 「プロンプトエンジニアリング」とは、生成AIを効率的に使用するために、言語モデルに入力する命令文を開発したり、最適化したりする作業。生成AIを的確に使いこなすには、入力するプロンプトの質がなにより重要になる。
生成AIは、単純に質問や指示の入力だけでは適切な出力が期待できない場合がほとんど。特に何かのタスクを依頼したい場合、具体的でわかりやすいプロンプトを入力しなくては、生成AIは思い通りの出力結果を返してくれない。
- 質の高いプロンプトには、主に以下のような要素が共通して含まれる。
〈指示〉
生成AIに与えられる具体的なタスクや命令。指示は明確かつ具体的であるべきであり、生成AIが適切な応答を生成するための指針となる。
〈背景〉
背景情報は、タスクの実行に関する補足的な情報や文脈のこと。背景情報は、タスクに関連する事実、制約、ドメイン知識などを含むことがある。
〈入力データ〉
入力データは、生成AIがタスクを実行するために必要な情報や資料。適切な入力データを提供することで、生成AIはより正確かつ適切な応答を生成するために必要な情報を得ることができる。
〈データの出力形式〉
データの出力形式は、生成AIの出力データの形式やフォーマットのこと。例えば、テキスト、数値、リスト、表、グラフなど様々な出力形式により、AIモデルが要求された形式に合わせた結果を提供することができる。
プロンプトエンジニアリングのテクニック
- Zero-Shotプロンプティング
自然言語処理の一手法であり、トレーニングデータに事前にその具体的なタスクやクエリ(問い合わせ)に関する情報を含めずに、モデルが新しいタスクやクエリに対して適切な応答を生成することを目指す手法。
例:Zero-Shotプロンプティング
〈プロンプト〉
パリの天気を教えてください。
〈回答〉
パリの今日の天気は晴れで、最高気温は25度です。 - Few-Shotプロンプティング
モデルに対して実際の例やデモンストレーションを提供し、文脈学習を通じて質問や指示のパターンを習得させる手法。AIはデモンストレーションを参考にしながら新しい情報に対して適切な回答を生成できる。Zero-Shotプロンプティングでは対応できないような複雑なタスクに対して特に有用。
例:Few-Shotプロンプティング
〈プロンプト〉
雪だるまは冬。桜は春。海は夏。紅葉は秋。入学式は?
〈回答〉
入学式は春です。…(以下中略)
- 生成AIの文章成型の型
0→1:文章生成
特定の指示や小さな情報(0)から完全に近い文章(1)を生成できる
1→10:文章拡張
既存の文章(1)にもとづいて新たな情報を付け加えたり、欠落している詳細を補足したり、文章そのものを展開(10)して元の文章を豊かにできる
10→1:要約
人間の言語を模倣し、理解し、生成する能力により、長いテキストや複雑なアイデア(10)を短く、簡潔に、そして理解しやすく表現する要約作成(1)のタスクにも対応できる
1→1:文章変換
翻訳や文章の修正など、文章を1→1で変換できる。 - 生成AI活用で重要なのは、その性能を網羅的にとらえたうえで、どのような活用方法が考えられるかを明確にすること。「生成AI」への指示は、「具体性」「項目分け」「ステップの明示」が効果的。ソフトスキルの重要性が増し、「生成AIをマネジメントする力」が何より問われる。
- 生成AIは、画像やテキストなど、あらゆるファイルを読み込み、汎用的に分析したり、何かの処理を行ったりしてくれる機能が拡大していく。これからは人間とAIの対話や相互作用を考え、AIを単なるツールではなく、協働パートナーとして活用する道を模索すべきである。
生成AIは文章や画像の作成だけでなくクリエイティブなタスクを自動化でき、あらゆる分野で労働時間の減少や生産性の向上が期待されています。人間がこれまで手作業で行っていた作業を、AIがすべて代行する未来もそう遠くはないかもしれません。
無論リスクも多くありますが、まずは本書籍が述べているように生成AIの正しい知識を身につけて、人間とAIが共存する未来を考えていくことが大切だと感じます。生成AIのビジネス導入事例はまだまだ少数ですが、今後はさまざまなサービスと連携した製品の登場により、導入する企業も増えていくことでしょう。
ChatGPTなどの生成AIを使って社内業務の効率化に活用したい方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
この記事を書いた人
高島 耕
株式会社ディーエスブランド Webマーケター
ディーエスブランド入社後、メールマーケティングやセミナー運営、社内業務のDX化に携わる。現在はメタバースや生成AIなどの、先端技術分野のライティングを担当。